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#42: 社会化と再社会化
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『JOLLY’S magazine』の「盲導犬育成ドキュメント/第2回ブリーディング・ウォーカー/番外編: 宮崎さんのブリーディングウォーカー日記」*は、生まれたばかりの“生命”との触れ合いを感じることのできるとても温かな日記です。
さらに同日記中には「犬の『社会化』の重要性について」と題された、「日本盲導犬協会訓練部」による興味深い頁註もそえられています**。そのテクストによれば「子犬をさまざまな社会の環境に慣れさせていくことを『社会化』といいます。社会化のためには、生後3週間~3ヶ月の期間がとても重要で、この期間にいろいろな経験をすることによって、小さなことにビクビクしたり驚いたりしない、落ち着いて安定した性格の犬に成長していくのです。この社会化のためには、抱っこして外を散歩して、他の動物(猫・鳥など)の存在を知らせたり、電車の音や車の音に慣れさせたりします。いろいろな音(車・バイク・飛行機・犬の鳴き声など)が収録されているCDを聞かせたりします。段階を経て、家の中で家族以外の人に会ったり、ドライブにも行きます」とあります。


他方、私が専攻していた社会学にも、その基本概念の一つに“人の「社会化(socialization)」”がありますので***、今回は、私自身のヴォランティア活動に活かしうるナニカを今後、見出していくための布石として、両者の異同ならびに関連のあたりをちょこっとだけ考えてみたいと思います。


“人の「社会化」”とは端的には、人それぞれが自発的に、他者との相互作用を通じて、(広義の)制度に適合的な行為規範や役割期待を内面化するかたちで学習すること(cf. G.H.ミード)、およびその相互作用を通して社会が形成されること(cf. G.ジンメル)を意味します。今回とくに関係があるのは前者の「社会化」ですが、それには、主に親との相互作用によってアイデンティティがかたちづくられる乳幼児期の「社会化」に加え、組織への参加等に応じた成人期の「再社会化」(cf. 吉澤夏子)、換言すれば「職業的」とか「政治的」といった連辞符が付く「社会化」も含まれます。


こうした“人の「社会化」”をあえて枠組として採って、アイデンを例に「犬の『社会化』」について考えてみますと、アイデンにおいても及部さんとの生活に至るまでの主人交代や環境変化に応じた(成犬期の)「再社会化」があったと捉えることができるのかもしれません(これはあくまでも一枠組からの類推であり、私見です)****。ただし「再社会化」とはいえ、「再」後の「社会化」(のやりかた)自体が「再」前の「社会化」の前提上ないし少なくともその影響下にあるわけですから、「再」前の「社会化」が無化されるわけではなく、「社会化」は層化されており、そしてその基層としての「生後3週間~3ヶ月の期間」の「社会化」がやはり「とても重要」であるということになると思います。


一方、アイデンを自宅に迎えた及部さんにおいては、その自宅生活の変容は、苦労は多かれど、「再社会化」を必要とする類のものではなく、その変容への適応を助けるための、「再社会化」を伴う組織への参加も必要ないようです(ただし、「再社会化」を伴わない、相互扶助的な組織には参加されています)。また合宿による共同訓練も、あくまで及部さんの体験談から察する限りでは、「再社会化」の過程そのものであるというよりも、アイデンとの生活方法をその多様性に倣って習い、それをさらに現行の生活と“接合化”するものとして、きわめてだいじな課程であったと窺えます。


しかしながらアイデンとの外出行動の方は、それ自体で社会環境を変化させる体験となっており、この点での「再社会化」は必要で、アイデンと過ごしたこの1年弱の期間はそれが行なわれていた、あるいは行なわれている時期であるように思えます。とするならば共同訓練も、及部さんご自身による「再社会化」への用意ともなる、かさねてだいじな課程であるといえるのかもしれません。
このように考えてみますと、アイデンと及部さんのあいだには、まさにその相互作用によって、片方ではなく双方に「再社会化」があったのであり、したがって「再社会化」自体が相互作用するような側面(位相)もあったのではないか、と思います。






*ベビーの「green」ちゃんは、パピーの「ユーティ」ちゃんとなりました。「ユーティ」ちゃんの様子は『JOLLY’S magazine』「盲導犬育成ドキュメント/第6回パピー・ウォーカー」で取材されており、さらに、その成長がオルゴールの音色とともに温かな「My Lovely Dogs」で紹介されています。ブリーディング・ウォーカとパピー・ウォーカの両ご家庭それぞれの日記がこうしてむすばれていること自体にも私は感激してしまいます。なお、『JOLLY’S magazine』「盲導犬育成ドキュメント/第19回その後のパピー」でも「ユーティ」ちゃんの様子が取材されています
**英語名称は“socialization”です。同じ記載が『JOLLY’S magazine』「盲導犬育成ドキュメント/第2回ブリーディングウォーカー」にもあります
***人の「社会化」は、社会学の他、心理学(社会心理学を含)等でもとりあげられています
****及部さんによれば、自宅にきた当初のアイデンは「なかなか、おちつけなかったようで」、おもらしをしてしまうことが度々あったそうです
by aiden301 | 2005-04-01 00:21 | ■ダイアリ


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